6月末。
いつも通り仕事から帰ると、部屋は空っぽっだった。
一瞬、何がなんだか分からなかった。
趣味で集めていたCDも、服も、本も、何もかもが無くなっていた。
唯一残っているのは冷蔵庫。
冷蔵庫は重くて運べなかったのだろうか。
それとも、次の入居者の為に残したのだろうか。
冷蔵庫以外のものは何もなく、昨日まで生活していたのが嘘の様だった。
どうしよう・・・
怒りと不安でしばらく思考停止状態だった。
床に座り込み携帯を取り出し、N社長に発信する所で我に返った。
焦ったらダメなんじゃないか、と。
とりあえず頭の中を整理しないと。
まず、N社長は家賃を払っていなかったのだろう。
という仮説を立ててみる。
部屋を追い出す、という事に理由があるとしたら家賃滞納くらいしか思い浮かばなかった。
管理会社からしてみれば、
N社長が僕に給料を渡していないとか、
N社長が代わりに家賃を払う事になっているとか、
関係無いだろう。
もし仮説が正しければ管理会社やアパートのオーナーに電話したところで無駄だろう。
そしてN社長に電話してももちろん無駄だろう。
どうしよう・・・
外はすっかり暗くなり、じめじめした暑さを感じながら、
何もない部屋にただただ座っていた。
どの道もう夜だし、動きようもないから寝る事にした。
寝る前、これが夢だったらと思ったけど、
起きたらやっぱり何も無かった。
試しにシャワーを捻ったらちゃんと出たので、シャワーだけ浴びて部屋を出る。
着替えも何も無いから昨日と同じ格好で出かける。
とりあえず仕事はちゃんとしなければと思い、
出来るだけ余計な事を考えず、仕事に没頭した。
その方が楽だった。
幸い携帯(iPhone)は持っていたので、
仕事が終わってからネットで色々検索したりしてどうするか考えよう。
家までの帰り道、どうしようどうしようと考えながら、
何も良い案が出て来なかった。
これからどうなるんだろう・・・と少し他人ごとの様な、現実味が無いような、
そんな気持ちで部屋の前に帰ってきた。
鍵が開かなかった。
もうダメだと思った。
2012年5月28日月曜日
ホームレスになった日
平成23年2月。
知人Nの経営している会社に入社。
当時25歳。
その時の僕は転職活動が上手く行っておらず、その事をN社長は知っていて、
「次の仕事までの繋ぎでも良いから来てくれ」
との事だった。
IT・通信関連の会社で、営業がメインの仕事。
次の仕事が決まるまでだし、知人が経営している会社なので転職活動もやりやすいかなと思った。
今までもずっと営業関係の仕事をしていたので、特に仕事上でつまづくことも無く、
それなりに上手くやっていたつもりだったのだが・・
一度も給与の支払いが無い。
固定給で支払うからという事で入社したのに・・・
給与がもらえなければ当然生活が出来ない。
昨年度末に引っ越したばかりだったので貯金も無い。
さすがに社長に「お金をくれ」と要求したところ、
生活費を渡してくれる事になった。
一週間に、3000円～5000円・・・
それとは別に、家賃も支払うと。
僕の住んでいたマンションの管理会社の社長と、
N社長は知人同士だから関係を悪化させたくないという事もあったのだろう。
自炊して、色々我慢すれば生活出来なくもないが・・・
元々知っている社長だからとは言え、そこまでして仕事を続ける義理は無いのだ。
2月・3月・4月と、毎日働いているのに収入が無いという状況。
「来月末には払うから」
と何度言われたか分からない。
今辞めた所で、給料の件をうやむやにされる可能性が高かったので、
切り詰めて切り詰めて生活をしていたが、
さすがに我慢出来なくなり、5月半ばに退職した。
辞める際に給与の事を問うと、
「そんな最初の話を持ちだしてきても困る」
と。
呆れてモノも言えなかった。
辞めたは良いが、今日明日の食費も無い状態。
すでに公共料金の支払い等も危ない状態だったので、
すぐに求人サイトを漁り、
工場の短期バイトの仕事を始めた。（日払い）
9時～17:00まで勤務して、日給は6000円程度。
決して満足の行く給与ではなかったが、食って行く為だ。仕方が無い。
毎日毎日食品関連の工場でお菓子を作る毎日。
6月も半ばを過ぎた頃、いきなりN社長から何度も着信が入る。
給与も払わない社長と関わる気も無いので、全て無視。
そしてある日一通のメールが。
「管理会社の人が連絡取りたがっている。次に住む人も見つかっているから。
連絡無かったら今月中に荷物全部出すから。」
( ﾟдﾟ)ﾎﾟｶｰﾝ
意味がわからない。
真っ先に家賃の未払いか？と思ったが、
N社長が5月末に払う分までは払っている筈なのだ。
どう考えてもおかしい。
何かの理由で部屋を出て行ってもらいたいのなら、
当然正式な通知が管理会社から来る筈だ。
もちろん契約者は僕自身。N社長が契約していた部屋では無い。
管理会社も、昔からある地域密着型の会社で、
まさかそんないい加減な事はあり得ないだろう。
週が明けた。
6月末。
仕事から帰ると部屋は空っぽだった。
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