「家が無い人の弁護は出来ない」
弁護士さんにそう言われてしまった僕には、
もう良い案は何も思い浮かばなかった。
相談出来る相手もいない。
ただただ、製菓工場で働くしかなかった。
でも、製菓工場での仕事の終わりがやって来た。
祇園祭が始まる頃だった。
製菓工場での仕事が終わる事を知った僕は、
すぐに新しい仕事を探した。
でも、見つからない。
寮付きの仕事や、
日当1万円くらいもらえる派遣の仕事にもいくつか応募したけど、
面接すらしてもらえなかった。
どうやら、応募が殺到しているらしい。
3.11の震災の影響もあったりするのだろうか。
震災後、倒産した中小企業も多いと聞いた。
毎晩、ネットカフェで仕事を探したけど、
結局すぐお金になりそうな仕事は無く、
僕はスポット派遣の会社に登録した。
日雇い労働だ。
製菓工場での仕事が終わった次の日、
スポット派遣の会社に行き、スタッフ登録をした。
スポット派遣というのは、常駐型派遣と違い、
仕事があれば回しますね、というスタイル。
仕事がもらえるかどうかは、前日じゃないと分からない。
運良く、登録した次の日には、運送屋での仕事が入った。
飲料水を扱っている会社だった。
その会社は滋賀県にあり、
電車で滋賀まで行き、そこからは30分程歩いて向かう。
現場近くまで行くバスも出ているのだけど、
バス代をケチる為に、僕は歩いて行った。
まさに運送屋といった雰囲気で、
体育会系の雰囲気の従業員が多かったのを覚えている。
仕事は、思っていたよりもキツくはなかった。
以前、某物流会社での仕分けの仕事をした経験があったので、
それに比べれば、楽な仕事だと思えた。
日当6千円。
出荷する店舗ごとの大きなカゴ付きの台車に、飲料水のケースを20ケースほど積み、
そのカゴ付きの台車を、トラックの前まで運んでいく。
クーラーも何も無い倉庫内はしんどかったが、
ちゃんと休憩も取らせてくれて、比較的良心的な会社の様に思えた。
仕事内容は大丈夫だったのだけれど、
問題は、毎日仕事がもらえないという事だった。
スポット派遣は、忙しい日しか呼んでもらえない。
ベテランの人は、毎日入っていたみたいだったけど、
やはり新人はあまり呼んでもらえないみたいだった。
そこの運送屋の仕事が無い日は別の現場を紹介してもらいたかったけど、
あまり紹介してもらえなかった。
丁度夏休みで、大学生も多数登録している様だった。
登録スタッフに対して、仕事の量が見合っていない様子だった。
毎日仕事がある訳ではなく、
収入も極端に不安定になってしまい、
公園で寝る日が多くなった。
夏の暑い日に、公園の固いベンチでは熟睡出来るハズも無く、
3時間程度寝ては起きて、また寝ては起きての繰り返しが続いた。
屋根が無いので、
「何か冷たいな」と思って目を覚ましたらもうずぶ濡れという事もあった。
雨の日は、公園の障害者用トイレや、
僕が追い出されたアパートの屋上にある、洗濯機置き場に侵入して寝ていた。
商店街の店先で寝たこともあるが、さすがに警官に起こされた。
食事も、ほとんど100円均一の店で買うようになった。
100円で、4個くらい入っているパン(チョコレートが中に入っている)をよく食べた。
あまりにもお金が無い時は、
BIGサンダーというチョコレートを買って、1枚で二日間過ごしたりもしていた。
何となく、カロリーが高そうだという理由で、BIGサンダーをよく食べたのを覚えている。
夏、公園で寝ていると、
周りは楽しそうな人ばかりだった。
仲の良さそうなカップル、花火をしている人達、ビールを飲んでいるサラリーマン。
ベンチで寝ている僕をどう思っているのだろう。
公園のあちこちから楽しそうな声が聞こえてくる度に、
悔しさと恥ずかしさに襲われた。
この生活に終わりが来る気が全くしなかった。
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